| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-225  (Poster presentation)

段戸モミ・ツガ林におけるスズタケの一斉開花・枯死が実生更新に与える影響
Effects of mass flowering and simultaneous death of Sasa borealis on seedling regeneration in the Dando Abies-Fagus forest

*朝日莞二, 依田浩輝, 中川弥智子(名大生命農)
*Kanji ASAHI, Koki YODA, Michiko NAKAGAWA(Nagoya Univ.)

林床に密生するササは樹木の実生更新を阻害する主要な要因の1つとされている。愛知県北設楽郡段戸モミ・ツガ希少個体群保護林(以下、段戸)一帯では、ササの一種であるスズタケ(Sasa borealis (Hack.) Makino et Shibata)が2016年に前開花、2017年に一斉開花・枯死した。スズタケの実生更新特性に加え、ササ枯死による林床環境や樹木の実生更新の変化を調べる貴重な機会である。本研究では、段戸においてスズタケの前開花が確認された2016年から一斉枯死3年後の2020年までの5年間、スズタケ幹密度、開空度、ネズミの個体数、スズタケおよび樹木の実生の動態調査を行うとともに、スズタケ種子の発芽実験を行った。スズタケの種子は種子生産の1年後から発芽を開始し、2年後に発芽のピークを迎え、最終発芽率は61.2 %であった。またスズタケの当年生実生は2017年から2019年まで出現が確認され、2019年の出現密度が45.41 /m2で最も高かった。一斉開花前から一斉枯死後にかけてスズタケ幹密度に変化は見られなかったが、開空度は増加していた。また、ネズミ類の個体数は2017年から2018年にかけて大きく増加したが、2019年には急激に減少し、2020年も個体数は少ないままだった。樹木の当年生実生はスズタケ枯死後も出現密度に変化はなかったが、スズタケ枯死2年後の2019年のみ生残が促進された。また非当年生実生の蓄積密度は2017年から2018年にかけて増加し、2019年と2020年も高い蓄積密度を維持しており、一時的に実生更新が促進されたことが示唆された。樹木の当年生実生の出現および生残はスズタケの残存稈密度と、スズタケの実生密度によって負の影響を受けていた。今後、スズタケの残存稈が倒壊することで樹木の実生更新がさらに促進される可能性がある一方で、スズタケの実生の成長によって更新が阻害される可能性もあるため、継続的な調査が必要である。


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