| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-233 (Poster presentation)
都市化に伴う生息地の分断は、生物多様性に対する主要な脅威の一つである。したがって、都市においては、生物の生息地のみならず、生物が生息地間を移動して資源を獲得するための移動経路の保全も重要である。生物の生息地間の移動を可能とする空間として、緑道や河川が挙げられており、河川における21種の水鳥の移動状況を調査した研究から、複数種の水鳥が移動経路として河川を頻繁に利用することがわかっている。しかし、様々な景観要素がモザイク状に分布する都市景観において、⽔⿃が選択的に河川を移動しているか否かは明らかではなかった。そこで本研究では、都市における水鳥の移動経路として利用される空間の特徴を解明するために、市街地の河川とその周辺も含む範囲で水鳥の移動状況を調査した。
調査は、2019年度の冬季に東京都の隅⽥川を中⼼とした東⻄約7km×南北約6kmの範囲で実施した。調査地を100個の4次メッシュに区切り、各メッシュで日の出前後と日の入り前後に各3回ずつ水鳥の移動個体数を記録した。環境条件には各メッシュの河川等の水域面積、流路直上に沿った構造物(高速道路)が河川を覆う割合、橋などの横断構造物が河川を覆う割合、分布する最寄りの孤立水域までの距離、地物の高さの平均を用いた。
記録個体数の75%以上を占めていたユリカモメ(Larus ridibundus)を対象に、移動に影響する環境条件を分析した結果、河川等の水域面積と地物の高さが正の影響を、流路直上に沿った構造物が負の影響を与えていた。
本研究から、水域面積が大きな河川ほど都市における水鳥の移動経路として機能することや、河川上の構造物が移動に与える影響は、流路へのかかり方により異なることがわかった。また、市街地では水鳥の移動に適した開けた空間が河川以外にほとんど存在しないため、河川が都市における水鳥の主要な移動経路として機能している可能性が示唆された。