| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-237 (Poster presentation)
葉の集まりである樹冠の形やサイズは光獲得と関係するため、樹木の成長速度や生存率に強く影響を与えると考えられるが、林分を形成する樹木個体すべての樹冠が、長期間でどのように変化し、光環境と関連しているかを考察した例は少ない。本研究は、毎木データと樹冠投影図を用いて、長期的な樹冠サイズの変化が樹木個体の成長・生存とどのように関係するかを解析した。さらに、同プロットで実測した光環境と樹冠投影図を統合し、樹冠の伸長と光環境の関係を明らかにすることを目指した。
調査地は屋久島西側の標高280 mにおける45 m×50 mの照葉樹林調査区である。1989年から数年おきに胸高直径5 cm以上の個体について毎木調査が行われている。1991、2005、2020年に樹冠投影図と樹高の測定を行った。樹冠投影図をArcGIS上でトレースし、過去3回分の樹冠投影図の各個体の根元位置を一致させた。また2020年に光量子センサーを用いて5 m×5 m ごとに一か所ずつ(合計90カ所)、高さ1 mから最大22 mまで1 m間隔で光量子密度を測定し、相対照度を計算した。さらに、90カ所の相対照度の分布から、各地上高における平面方向の光分布を求め(クリギング法)、レイヤー化し、高さごとの光分布と樹冠の位置関係を解析した。
1991年から2020年にかけて樹冠面積の平均値は9.33 m2から12.9 m2に増加したが、23%の個体で樹冠面積が減少した。樹冠面積が減少した個体は、樹冠面積が増加した個体に比べて胸高断面積の増加量が有意に小さかった。また、1991年から2005年に樹冠面積が増加した個体では、その後3年間(2005- 2008)に3.3%の個体が死亡し、樹冠面積が減少した個体では8.4%が死亡した。林内の光の三次元分布は樹冠の配置と密接に関わっていた。高さごとの光の不均一性は、森林の中層で最も高かった。さらに中層では、樹冠が明るい方向に伸びたことが示唆された。以上より、樹冠の成長は光環境と密接に関係し、個体の成長や生存にも強く影響していることが示された。