| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-241  (Poster presentation)

景観の違いが小型哺乳類の遺体消失に与える影響
Effects of landscape on the decomposition of small mammal carcass

*雫田享佐, 斎藤昌幸(山形大学・農)
*Kyosuke SHIZUKUDA, Masayuki U SAITO(Yamagata Univ.)

野生生物による動物遺体の利用は、遺体の分解速度や物質循環を加速させる機能がある。景観によって生息する生物相は異なるが、都市や農地景観といった人間活動の影響が大きい景観においても遺体の消失に関わる生物が生息していることから、景観に応じて遺体分解機能の補完が生じている可能性がある。本研究では森林、農地、都市景観において脊椎動物と無脊椎動物による小型哺乳類の遺体消失パターンを明らかにすることを目的とした。
調査は2020年8月~11月に山形県鶴岡市でおこなった。森林、農地、都市景観を設定し、それぞれに樹冠が閉鎖している閉鎖サイトと開放されている開放サイトを設定した(ただし、農地景観は開放サイトのみ)。各調査サイトに餌用マウスを設置し、遺体の状態から利用者(脊椎動物、モンシデムシ、ハエ類、アリ類、その他)を推定した。また、一部の遺体にカメラトラップを設置して遺体を利用した脊椎動物を特定した。各遺体利用者による遺体利用の有無を調査サイト(すなわち景観)で説明するロジスティック回帰分析をおこなった。
調査の結果、夏季では遺体利用者が景観により異なったが、秋季では全ての景観で脊椎動物による持ち去りが多かった。夏季の遺体利用者を解析した結果、森林-閉鎖サイトではモンシデムシによる埋め込みが多く、森林-開放サイトと都市-閉鎖サイトではハエ類による利用が多かった。また、農地-開放サイトと都市-開放サイトでは脊椎動物による持ち去りが多かった。このように景観間で遺体利用者は異なったが、遺体消失率には差がなかった。季節による遺体消失パターンの違いは、は鳥類や哺乳類の生活史 と昆虫類の活動量が秋季で低下することが関係している可能性が考えられた。   これらのことから、都市や農地景観であっても、遺体分解機能は脊椎動物と無脊椎動物が相互に補完することで維持されている可能性が示唆された。


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