| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-242  (Poster presentation)

火山ガスによって引き起こされる高山植生の衰退はなぜ空間的に異なるのか?
Why does  decline of alpine vegetation caused by volcanic gas vary spatially?

*釼持雅, TRANTung, 佐澤和人, 和田直也(富山大学)
*Masashi KENMOTSU, Tung D. TRAN, Kazuto SAZAWA, Naoya WADA(Univ. Toyama)

 中部山岳国立公園立山において,2012年以降,弥陀ヶ原火山の噴気活動が活発になり(気象庁,2013),H₂S,SO₂,HCl等の有毒成分を含む火山ガス(Seki et al., 2019)の影響により周囲植生の衰退が目立つようになった. 植生面が受ける有毒成分の負荷量は,噴気孔からの距離,風向,地形,積雪,植生優占種等によって異なることが考えられる. 本研究の目的は,国立公園内の植生管理対策や登山者の安全対策の一環として,火山ガスによる植生の衰退がどのような立地条件の時に発生するのかを明らかにすることである.
 本研究では,立山室堂地区地獄谷に複数存在する噴気孔の東端から東側の約30haを調査対象域とした. 噴気活動が活発になる以前の2009年9月に国土交通省により撮影された航空LiDAR測量画像と,2019年及び2020年8月下旬にドローンを用いて取得した空撮画像を解析,比較した. ドローン空撮画像についてはオルソモザイク画像を作成した後,全ての画像について植生域と非植生域の土地被覆分類を行うことで植生衰退域を推定した. 2009年から2019年,及び2019年から2020年の画像間について,新たに出現した非植生域を植生衰退域と定義した. 植生衰退域を在データとし,ドローン空撮画像から作成した数値標高モデルから求めた地形因子を環境データとして使用し,最大エントロピー原理に基づく分布モデルMaxEntを用いて対象地域内の植生衰退の発生確率に及ぼす各環境要因の貢献度を比較した. その結果,噴気孔からの距離,斜面方位,噴気孔からの相対標高が,植生衰退が発生しやすい土地的条件として抽出された. 過去10年間の比較では噴気孔からの距離に依存した衰退が顕著であったが,直近1年間の比較では距離依存性がやや減少し,噴気孔から離れ場所においても特定の斜面において植生の衰退が進行していることが分かった.


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