| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-246 (Poster presentation)
カヤツリグサ科スゲ属Carexは湿原,森林,草地などに広く生育する種子植物であり,地下匐枝の有無によって生育型が異なることが知られている.また,同所的に複数種が生育するため,近縁種間の生育環境の違いを調べるのに適した対象である.特に落葉二次林は複数のスゲ属の種が生育することで知られる.本研究では,主要な植生が落葉二次林である府中市浅間山に生育するスゲ属10種の生育環境の違いを,生物的環境(群落の種組成)の違いに着目して明らかにすることを目的とした.
対象とするスゲ属が被度10%以上となる場所(4m2)(以下優占スタンドとする)121スタンドで植生調査を行い,同時に環境条件として傾斜,高木層植被率,土壌体積含水率などを計測した.得られた調査資料をもとに草本層の種組成について,modified TWINSPANで群落分類を行い,スゲ属各種が出現する群落の偏りをみた.また,NMDSによる序列化を行い,環境条件を二次元空間上にベクトル表示することでスゲ属各種の優占スタンドと環境との関係をみた.さらに,出現する群落の違いを資源状態の違いとしたニッチ幅とニッチ重複度の算出を行い,生育環境の幅と重なりを数値的に表現した.
スゲ属10種が出現する群落の種組成や物理的環境から,湿った路傍,伐採や下草刈りされた林床,暗い林の林縁,攪乱を受けた林床と,各種の生育環境は異なっていた.また,その違いは種間で均等なものではなく,幅が広い種や特に重なる種があることが明らかになった.特に,ヒメカンスゲ,ヒカゲスゲといった叢生する種はより林内の環境に,クジュウツリスゲ,チュウゼンジスゲといった疎らに生える種はより疎林や草原的な環境に生育する傾向がみられたことから,地下匐枝をもつ種はより明るい環境に適応的な特性をもつことが示唆された.