| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-247 (Poster presentation)
近年、欧州や東アジアでは、半自然草原性の生物多様性保全のため、放棄や農地利用された半自然草原への草原管理再導入による植生再生実験が行われている。しかし、これらの再生実験において、管理再導入以前の土地利用の影響が再導入後に長期間に渡って植生再生を妨げるという現象が問題となっている。
また山地帯に分布するスキー場は、近代的土地利用にもかかわらず、半自然草原環境を維持し、草原性植物の代替生育地として機能しうることが報告されている。例えば、長野県東北部で長期に維持されてきた放牧地をスキー場に転用した場所ではキキョウなどの草原性絶滅危惧種も多く生育する草原環境が維持されている。一方、一度森林化した放牧地を開発したスキー場では、スキー場利用の開始から50年以上経った現在でも多様性の高い草原性植生が十分に再生していないことが明らかにされている(Inoue et al. 2020)。
そこで本研究では、「森林化を経たスキー場草原における植物の再生過程において、多様性の回復が50年以上に渡って停滞している要因は草原性植物の分散制限によるものである」という仮説を立て、その検証を行った。長野県上田市菅平高原周辺のスキー場には、300~数千年以上草原として継続している場所と、そのような草原が一度森林化して約20~50年前に草原造成された場所がある。草原期間が様々になるよう25地点を選定し、各地点に1m2の調査枠を4個(計100個)設置し、枠内の各維管束植物種の被度を2019年6,9月に測った。全出現種について生活史と種子散布様式を調べた。1947~1991年の航空写真を用いて各地点の草原継続期間を推定した。
その結果、散布制限のかかりやすいと考えられる重力散布種や、個体群成長速度が低い多年草の被度が、草原期間の長い方で高まる傾向があった。ここから、長距離散布種や多年草では草原再生後の定着までに時間がかかり、草原再生後の植生多様性の回復を制限している要因であると考えられた。