| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-251 (Poster presentation)
岡山県北部に位置する蒜山地域では,伝統的に火入れや刈り取りによって半自然草原が維持されてきた。また中国地方では,古代からたたら製鉄が盛んで,蒜山地域においても製鉄遺跡が多数発見されている。このような人間活動が植生変遷に与えた影響を明らかにするため,蒜山地域に位置する蛇ヶ乢湿原(標高680m),池ヶ平(標高600m)および八日市湿原(標高440m)において堆積物を採取し,花粉分析,微粒炭分析,植物珪酸体分析および放射性炭素年代測定を行った。
蛇ヶ乢湿原では,約7300~1700年前にはコナラ亜属,ブナおよびアカガシ亜属花粉が優勢であった。約1700~500年前にはアカガシ亜属花粉が減少し,草本花粉が増加した。約500年前以降には草本花粉が,約200年前にはマツ属複維管束亜属花粉が増加した。池ヶ平では,約3500年前にはコナラ亜属および草本花粉が優勢であった。またネザサ草原の指標となるメダケ属型の植物珪酸体も多く検出された。約2700~2300年前には微粒炭と,草本花粉が増加した。約1000年前には再び微粒炭が増加し,ススキ草原を示すヒメアブラススキ連型の植物珪酸体も増加した。約400年前にはマツ属複維管束亜属花粉が増加した。八日市湿原では,約3800年前にはヒメアブラススキ連型の植物珪酸体が多く検出された。約700~500年前には,コナラ亜属とイネ科花粉が優勢であった。約500年前には微粒炭が増加し,木本花粉の減少,草本花粉の増加が起こった。約400年前にはマツ属複維管束亜属花粉が増加した。
以上より,蒜山地域では,約4000~3000年前にはすでに開けた草本植生が存在し,標高の低い場所から段階的に草原が拡大したことが示された。約400年前のアカマツの顕著な増加は,近世に盛行した製鉄と関連する可能性がある。