| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-252 (Poster presentation)
群集集合の決定に影響する要因やメカニズムを解明することは、群集生態学における中心的な課題の一つである。群集集合に対する種間相互作用の効果の一つとして、一次遷移初期における先住効果が知られている。先住効果を含む種間相互作用の効果は、二次遷移のように撹乱発生時の植生-土壌系の発達程度が異なれば、初期の侵入種の種組成が異なると共に遷移の進行速度も異なると予想されるが、撹乱発生時の植生‐土壌系の発達程度が異なるサイト間でそれらを比較した例はない。本研究は、圃場整備後の経過年数の異なる水田と伝統的な棚田の土手を対象として遷移を観察することにより、撹乱時の土壌の発達程度と種プールの違いが攪乱後の遷移の進行にどのように影響しているかを明らかにすることを目的とした。
長野県北安曇郡小谷村の杉山地区(伝統的棚田)、伊折地区(2007年整備)、白馬乗鞍地区(2017年整備)を調査地区とし、各地区の水田の土手に0.5m×0.5mの調査区を設け、調査区内とその周囲1mの植物を地下部ごと除去し裸地化した。裸地化区の半分は実生の除去によって先に侵入した種による被覆などの影響を排除する実生除去区、残りの調査区は実生を除去せず裸地化後の遷移の進行を継続観察する非除去区とし、2週間に1回、新規に移入・絶滅した実生の種名と個体数を記録した。
2017整備地と2007整備地では実生除去区・非除去区ともに1年目の種組成はほぼランダムに生じていた。一方、伝統的棚田では両区ともに1年目の種組成は土壌条件によって異なっていた。また、非除去区においては、2017年整備地では2年間で遷移は進行せず、初期に出現したものと類似した種組成が継続していた。他2地区では2年目には一定の種組成へと遷移が進行していた。つまり、撹乱発生時に植生‐土壌系の発達程度が異なると、初期の侵入種の違い、および先住効果の現れ方の違いを通じて、二次遷移の進行速度が異なってくることが示唆された。