| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-255 (Poster presentation)
草地植生の再生事業に際し、埋土種子として現地に残存したり周囲から飛来する草地性植物の種子の多寡は、事業の成否に大きな影響を及ぼす。これらの種子からの発芽個体は、幼個体の時期に特に死亡率が高い。そのため、事業開始直後の個体の発芽や残存状況は、再生事業の成否を予測する重要な判断材料の一つとなる。一方、草地の植物種多様性が高まる立地特性の一つに、急傾斜地が挙げられる。しかし、急傾斜地の草地において、植生の再生事業後の実生の残存状況は明らかでない。そこで、3年間管理放棄され植物種多様性が低下したのち植生管理が再開された傾斜地の草地において、芽生え個体とその定着状況を2年間追跡した。東京都町田市の丘陵斜面の草地において、1m四方の調査区を1m間隔で10個設置し、10m2を対象に2019年5月から2020年10月まで1か月ごとに記録を行った。2年間で1183個体の芽生えが記録された。記録された種の過半数は、管理再開前の2018年には現存植生に記録されていなかった。2019年にはアキカラマツなどの多年草の個体数が一年草のそれを上回り、2020年にはオニタビラコなどの一年草の個体数が多年草のそれを上回った。2019年に出芽した多年草の翌年10月の残存率は、アキカラマツ、アザミ属、アキノタムラソウなどで比較的高く、セイタカアワダチソウ、ニガナで比較的低かった。2年間で開花に至った個体はわずかだった。管理再開前に見られなかった種が再生事業後に多数確認された要因は、管理放棄期間が3年と短く、放棄前に生育していた種の埋土種子が多数残存したことにあると推測される。残存率の高かった種は発芽後の生育初期に地下部へのバイオマス分配が高いことが知られており、この特性が実生の残存率の高低に影響した可能性がある。