| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-256 (Poster presentation)
放棄湿田や放棄ため池は、生物多様性を保全する上で重要な湿地生態系であるが、放棄から長い年月が経つと遷移や乾燥化により湿地環境が失われる場合が多い。このため、民有地では存続が難しいが、公共の公園緑地に取り込まれた場合には、適切な植生管理による保全が期待できる。
兵庫県立あわじ石の寝屋緑地には、放棄湿田と放棄ため池がとりこまれている。放棄の時期は不明であるが、2001年にはすでに放棄されていたと考えられる。緑地の開園前(2001-2014)には調査が行われていたが、2015年の開園後以降は調査や管理はほとんどおこなわれておらず、現状が不明となっている。
そこで、本研究では同緑地で、開園以降の5年間の放置によって放棄湿田と放棄ため池の湿地環境がどのように変化したかを明らかにすることを目的として、ため池と湿田の植生、水深および損壊などの状況を調査した。
調査地の放棄湿田は、谷底に1列に並んだ一連の湿田である。放棄ため池は、これとは別の谷筋にある2つの連続したため池である。植生調査は、1m×1mのコドラート82個で植被率・群落高・出現種とその被度を記録し、ウォード法によるクラスター分析によって群落を区分した。
調査の結果、放棄湿田では、田面内を貫く新たな流路が形成され、流路に沿ってガリー浸食が生じていた。この流路に向かって漏水するため、開園前に湛水状態だった田面でも、現在の水深は±0㎝となっていた。放棄ため池は、開園前は干上がることはなかったが、現在は、無降雨がつづくと満水から1ヶ月ほどで干上がるようになっていた。また、マサ土の流入・堆積により、池の泥底の面積が縮小していた。
植生調査の結果、湿生水生植物群落5タイプ、陸生植物群落1タイプが区分された。このうち、複数の絶滅危惧種を含む水生植物群落1タイプの立地はため池の泥底部に限られ、これを保全するためにはため池の漏水と土砂堆積の対策が早急に必要と考えられた。