| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-263  (Poster presentation)

暖温帯林における菌根菌の菌糸成長に及ぼす宿主樹種の影響
Effects of host tree species on mycorrhizal mycelial production in a warm temperate forest

*青木一真(東京農業大学), 小南裕志(森林総合研究所), 今井伸夫(東京農業大学)
*Kazuma AOKI(Tokyo Univ of Agri), Yuji KOMINAMI(FFPRI), Nobuo IMAI(Tokyo Univ of Agri)

菌根菌は、ほとんどの樹木種と共生し、水・養分吸収のために根外菌糸を生産している。その生産量は、森林のNPP(純一次生産)の3-14%にも上ると言われている。これまで根外菌糸生産は、土壌に菌糸培養コアを挿入し菌根菌糸と土壌腐生菌糸が入るコアと、トレンチ(根系除去)処理によって腐生菌糸だけが入るコア間で菌糸量を調べ、(腐生+菌根菌)-腐生菌=菌根菌として算出されてきた。しかし、トレンチ処理区内で根系が枯死・分解し富栄養化して、トレンチ下部から菌糸が侵入・コンタミするため、菌根菌量が過小評価される問題があった。また既存研究は、ECM(外生菌根)性樹種が優占する冷涼な北方林や冷温帯林に偏ってきた。
そこで本研究は、低コンタミな新手法を用いて暖温帯の様々な樹種を対象に菌根菌糸生産の測定を行った。農工大FM多摩丘陵のコナラ(落葉広葉、ECM)、アラカシ(常緑広葉、ECM)、スギ(常緑針葉、AMアーバスキュラー)樹冠下に、培養コアを120個設置した。コア周辺土壌全体を、有機物をほぼ含まない真砂土に置換することでコンタミを抑えた。約3か月後にコアを掘り出し、菌糸抽出と菌糸長測定を行った。また、本手法と従来手法での菌糸生産も比較した。森林のNPP(木部生産、リターフォール、細根生産)を調べ、NPPに対する菌根菌糸生産への配分比も算出した。
予想通り、本手法はトレンチ区の菌糸量が従来手法よりも顕著に低く、トレンチ下部からの菌糸コンタミを避けられていると考えられた。菌根菌糸生産量は、コナラ>アラカシ>スギの順で多かった。NPPと菌根菌生産はそれぞれ7.6及び0.34 Mg C/ha/yrで、NPPに対する割合は4.5%であった。このように菌根菌糸生産は、従来手法では過小評価になっている可能性があること、森林炭素動態の重要な経路であること、宿主樹種の生活型や菌根菌タイプによって異なることが分かった。


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