| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-270  (Poster presentation)

アマモ・カジメから浸出する有機物の蛍光特性評価とその分解特性
Quantitative and qualitative aspects of dissolved organic carbon leached from Zostera japonica and Ecklonia cava

*田中秀幸, 久保篤史(静岡大学)
*Hideyuki TANAKA, Atsushi KUBO(Shizuoka Univ.)

大気中の二酸化炭素濃度増加による気候変動の影響評価を行うためには,海洋における二酸化炭素吸収量の評価が必要不可欠である.近年,水生植物による炭素固定(ブルーカーボン)が全球規模での二酸化炭素収支に寄与していることが報告されている.水生植物は光合成による二酸化炭素固定に加え,有機炭素を堆積物中に長期間貯留する.また,枯死後水生植物から溶存有機炭素(DOC)が水柱へ放出(浸出)されることが報告されている.DOC浸出の一部が難分解性DOCであれば現在のブルーカーボン量の推定は過小評価となる可能性がある.本研究では枯死後の褐藻(Ecklonia cava カジメ),海草(Zostera japonica コアマモ)を用いて培養実験を行い,浸出したDOCの量とその蛍光特性・分解特性を評価した.培養は現場ろ過海水中に植物体を封入し,塩化水銀添加の有無の2系統を暗所・22℃で30日間行った.培養期間中好気条件を保つために酸素供給を行う培養も併せて行った.DOC浸出量はカジメ(6850 ± 1569 μmolC/g dry-wt.)の方がコアマモ(3417 ± 692 μmolC/g dry-wt.)に比べて多かった.これは,細胞壁の主成分がコアマモは難分解性のセルロースであるのに対して,カジメはアルギン酸が主成分であることに起因していると考えられる.また,難分解性DOCの割合はカジメの方が3倍程度高かった.培養水から得られた励起蛍光マトリックスを用いてPARAFACを行った結果,カジメ・コアマモ共にタンパク質様蛍光の蛍光強度が培養初期に上昇し,塩化水銀未添加培養実験ではバクテリアによる分解により速やかに低下していた.一方,腐植様蛍光は塩化水銀添加の有無にかかわらず培養期間を通じて増加していた.そのため,難分解性DOCが直接浸出していたと考えられる.また,好気条件下のコアマモの培養実験では塩化水銀未添加培養実験の方が,添加培養実験結果に比べて腐植様蛍光の蛍光強度が高くなっていた.そのため,易分解性DOCを用いて難分解性DOCが生成している可能性がある.


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