| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-271 (Poster presentation)
雪害はスギ林における代表的な自然撹乱の一つであり、雪害を受けたスギ林では、健全な個体と樹冠部にダメージを受けた個体が混在する、樹冠状態の不均一な林分となることが多い。したがって、雪害を受けたスギ林の林分スケールの蒸散量を推定するための基礎情報として、樹冠状態が蒸散量の空間的なばらつきにどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることが重要となる。そこで本研究では、蒸散量の指標である樹液流速を健全木(H)と雪害によって樹冠を一部欠損した樹冠一部残存木(BSc)で測定し、スギ個体内の辺材深度による樹液流速の減衰および樹液流速の方位によるばらつきについて調査し、雪害による樹冠欠損がスギの樹液流速の空間的なばらつきに及ぼす影響を明らかにする。
調査は岐阜大学流域圏科学研究センター高山試験地の常緑針葉樹林サイトで行った。当該サイトは2014年12月に雪害を受けており、林内にはHとBScが混在している。調査はHおよびBScの各4個体を対象とし、各個体の樹液流速は東、西、北の3方位で、それぞれ辺材の深さ0-20mmと20-40mmにセンサーを挿入し、グラニエ法によって測定した。
H、BScともに、辺材深度20-40mmの樹液流速は辺材深度0-20mmでの樹液流速の6割程度で、辺材深度による樹液流速の減衰傾向は両者で類似していた。ただし、BScの樹液流速はいずれの辺材深度でもHの樹液流速の6割程度であった。方位による樹液流速のばらつきはHとBSc両方で見られたが、特定方位で高いなど一貫した傾向はみられなかった。Hは辺材深度20-40mmで方位間の樹液流速の差が大きく、極端に樹液流速の小さかった方位ではセンサーが心材に達していた可能性がある。一方で、BScは辺材深度0-20mmで方位間の樹液流速の差が特に大きかった。この結果から、樹冠欠損の影響により一部の辺材部で水通導性が減少している可能性が示唆された。