| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-272 (Poster presentation)
土壌呼吸(SR)とは土壌から大気中にCO₂が放出される現象であり、その放出量は一般的に地温依存的であるとされる。一方、SRを連続測定すると1日の中で地温が同じ時間帯でもSRが異なる値を示すことがあり、この現象をヒステリシスと呼ぶ。先行研究では光合成産物の影響により根呼吸(RR)がヒステリシスを示すことがこの主な原因であると考えられている。しかし、技術的な問題から実際の生態系でRRを連続測定することは難しい。そこで本研究は落葉樹林においてSR及びトレンチ法により測定可能な従属栄養生物呼吸(HR)を夏季と冬季に連続測定することで「ヒステリシスの主な要因はRRである」という仮説を検証することを目的とした。
本研究は冷温帯落葉広葉樹林を対象に行った。SR及びHRの測定は2011年7月,2013年8月(夏季)と2011年11月,2013年10-12月(冬季)にそれぞれ1-5週間程度行った(HRの測定は2011年のみ)。SRは自動開閉チャンバーを用いた密閉法で連続測定し、HRはこの方法とトレンチ法を併用して測定した。また、同時に地温の連続測定も行った。
SR、HR、地温はいずれの季節においても日中に上昇し、夜間に低下するという明瞭な日変化を示した。しかし、SRとHRの日変化は地温の日変化より1-4時間程度遅れていた。SR(HR)と地温のデータを用いて温度呼吸曲線を描くと、全ての曲線において同じパターンのヒステリシスが観察された。RRを除去して測定したHR及び落葉した結果光合成が行われていない冬季のSRのいずれにおいてもヒステリシスが観察されたことから「ヒステリシスの主な要因はRRである」という仮説は棄却された。今後はSR及びHRにおいてヒステリシスが見られた原因を調査していく必要がある。