| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-275  (Poster presentation)

成長速度が異なる12種の落葉広葉樹の幼木における落葉分解速度の違い
The difference in decomposition rates of leaf litter across 12 deciduous broad-leaved trees differing in growth rates

*萩原陽子, 上田実希(日本女子大学)
*Yoko HAGIWARA, Miki UEDA(Japan Women's Univ.)

 多くの陸上生態系では、植物が生産する葉の9割以上は落葉として土壌に供給されて分解されるため、落葉の分解は物質循環を稼働する主要な生態系プロセスである。これまでの研究から、植物の生産能力と高い相関がある、乾燥重量あたりの葉面積を示す形質SLAが、多様なバイオームかつ広い植物種間において分解速度と強い相関がある。しかし、狭い生態系範囲かつ植物種内でも、先行研究で指標となった落葉の形質が同様に分解速度を説明できるのかは明らかになっていない。
 本研究では、日本の冷温帯林に広く分布する12種の落葉広葉樹の幼木を材料として、さまざまな樹木の形質と落葉の分解速度の関係の解析から、落葉の分解速度を決定づける要因の理解を試みた。
 東北大学大学院生命科学研究科共通圃場で栽培し採取された、落葉広葉樹12種の2年生の幼木を用いた。リターバッグ法により分解した葉の残存量から残存率を算出し、先行研究から得られた52項目の形質と、残存率との関係を解析した。
 落葉残存率は、52項目の植物の形質のうち、4項目で分解との有意な相関が検出された。先行研究と異なりSLAは分解の有意な指標とはならなかった。この原因の一つとして、本研究の材料は葉寿命が1年以内と短く、多様な種を扱う研究よりも種間のバリエーションが小さいことが挙げられる。一方で、生重量あたりの乾燥重量を示す形質LDMCは残存率と正の相関を示した。先行研究からLDMCが低いほど植物の生産が大きくなることが知られている。また、LDMCは葉の密度に密接に関連するため、LDMCが小さい種ほど密度が低く柔らかく、分解し易くなると考えられる。植物は、生産を大きくする戦略によりLDMCを小さくし、そのような植物の葉は分解され易いことが示唆された。以上より、植物の戦略が生態系プロセスを規定する要因として重要であることが示された。


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