| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-276 (Poster presentation)
生物の移動に伴う生態系間の境界を越えた栄養塩の移動は、移入先の生態系の重要な資源となりうる。特に河川を遡上する回遊魚は死体の分解や排泄等によって河川へ栄養塩を移入する。琵琶湖流入河川は多くの回遊魚が遡上するが、回遊魚が河川生態系に与える影響は調べられていない。本研究では、琵琶湖流入河川において回遊魚の遡上を遮蔽する『やな漁』を利用して回遊魚であるハスの遡上が河川生態系に与える影響を調査した。
滋賀県高島市を流れる琵琶湖流入河川である安曇川のやな上下において2020年8月5日-6日に、ハスの密度と河川水のNH4+、PO43-濃度、藻類のクロロフィルa濃度、ベントスの個体数及び種数を測定した。また、ハス由来の栄養塩の利用を調べるために藻類とベントスの炭素窒素安定同位体比を測定した。
調査の結果、やなの上流でハスの密度が0.02±0.03(匹/㎡)であったのに対し、下流では0.14±0.06と密度は有意に高かった。これに伴い、NH4+とPO43-濃度はやなの下流でNH4+が約1.8倍、PO43-が約1.2倍となった。藻類のクロロフィルa濃度もやなの下流で約2.7倍となったが、ベントスの個体数及び種数には上下で有意な差はなかった。δ15Nについては藻類及びベントス共にやなの下流で有意に高い値となったことから、やな下流の藻類やベントスは、藻類やベントスより高い値をとるハス由来のδ15Nの影響を受けていると考えられた。
結果からハスの遡上により河川へNH4+やPO43-の形で栄養塩が移入され、藻類はハス由来の高いδ15Nの値を持った窒素を利用してバイオマスが増加したことが示唆された。ベントスの個体数等に違いが見られなかった理由としてはハスによる産卵床形成時の河床の攪乱や、春季に昆虫類の幼生が羽化し、調査時に河川のベントス総量が少なかった可能性が考えられる。一方で、下流でベントスのδ15Nの値が有意に高かったことから、ベントスはハス由来のδ15Nを取り込んだ藻類などを摂食し、間接的に遡上魚の影響を受けていると思われる。