| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-281 (Poster presentation)
一般に植物の多様性評価は、特定面積の植生調査に基づき、種数などの多様性指標を算出し行われるが、α多様性の算出は調査面積に応じて大きく変わりうる。一方、調査地域内の空間的異質性を扱うβ多様性も、検出されるパタンが調査面積に依存して影響を受けうけるが、β多様性の定量化における調査面積依存性は検証されてない。
近代的土地利用の一つであるスキー場は、高山草原や森林植生へ負の影響を与えていると言われているが、一部のスキー場では絶滅危惧種を含む草原性植物の代替生育地となっていることを示す研究結果も得られてきている。そのため、多くのスキー場で草原性植物の多様性を評価・比較し、多様性の高いスキー場を明らかにする必要があるが、既存研究では調査面積や多様性指標が異なり、研究間の比較が難しい。
本研究では、長野県上田市の菅平高原において、1910年から現在まで継続して草原を維持している草原継続利用スキー場、森林経由後70年以上草原を維持している森林経由古草原スキー場、45年以上草原を維持している森林経由新スキー場で、Eurasian Dry Grassland Groupの提唱する複数の面積を同時に調べる植生調査法を用い、スキー場タイプ間のαおよびβ多様性の比較を行った。またα・β多様性を定量化する際の調査面積依存性についても検討した。
スキー場タイプ間の比較結果からは、調査面積によってα・β多様性の高低が入れ替わりうることが明らかになった。この多様性評価の調査面積依存性は、構成種の被度分布の違いに起因する可能性がある。今回は、複数の面積を調査することで、スキー場間の違いを明確にできた。森林経由古スキー場では多様な草原性植物が回復している可能性が示唆された一方、森林経由新スキー場では絶滅危惧種の生育を含む旧来の植生がみられず、いったん森林化した後の草原植生の再生には非常に長い年月がかかることが明らかになった。