| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-285  (Poster presentation)

高度の上昇に伴う潮間帯海藻群集の時間安定性の低下
Elevation decreases the temporal stability in intertidal algal community

*立花道草, 野田隆史(北海道大学)
*Michikusa TACHIBANA, Takashi NODA(Hokkaido Univ.)

生物多様性は様々な生態系機能と関連すると考えられており、なかでも群集の時間安定性と多様性の関係については半世紀以上もの間、盛んに研究が行われてきた。その結果、種数は個体群の時間変動性や同調性を介して群集の時間安定性に寄与することが操作実験を通じて明らかにされた一方で、たびたび自然群集ではこの関係が顕著でないことが報告されている。これは、種数と群集の時間安定性との間には何らかの交絡因子の存在することを示唆している。環境ストレスはその勾配に沿って様々な生態学的プロセスが変化するため、交絡因子の候補として考えられる。例えば、種数や個体群サイズは環境ストレスが中程度な群集で最も高く、個体群動態における種間競争の影響の強さは環境ストレスの増加とともに減少することが明らかにされているが、これらの要因はいずれも個体群動態の時間安定性や同調性に寄与する。岩礁潮間帯では高度とともに空気中に露出する時間が増加するため、高度は海藻群集に対する代表的な環境ストレス勾配である。実際に、世界各地で海藻の種数が高度とともに減少することが知られている。そこで本研究では、北海道東部の太平洋沿岸の垂直な24岩礁に設置した永久方形区の長期センサスから得た海藻群集の時系列データを用い、群集アバンダンスの時間安定性、個体群動態の種間の同調性、個体群動態の変動性、種数を算出し、それぞれの因果関係については構造方程式モデリングを用いて検証をした。その結果、高度の上昇が、種数の減少、個体群動態の種間の同調性の増加および各個体群の時間安定性の増加を介して群集アバンダンスの時間安定性を低下させることが明らかとなった。このことは、群集の時間安定性と多様性の関係において環境ストレスは交絡因子となりうることを示している。


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