| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-294 (Poster presentation)
水田やため池、用水路といった農業水利に関する淡水生態系(以下、農業水利生態系)を利用する分類群の一つであるトンボ目は保全価値が高く、生態系評価の生物指標としても用いられている。しかし、近年トンボ目の多様性の喪失が報告されている。この状況の改善に向けてトンボ相全体のモニタリングが必須であるが、トンボ目は形態学的な種同定が困難な場合も多く、より効率的なモニタリングツールの開発が望まれる。本研究では形態学的な同定の障壁を回避しつつ生物相の迅速かつ簡便なモニタリングを可能とする環境DNAメタバーコーディングに着目した。まず、従来的なトンボ目幼虫の採捕調査と採水を並行して行い、従来手法と環境DNAメタバーコーディングによる検出種を比較した。また、農業水利生態系から89の水サンプルを採取し、環境DNAメタバーコーディングを用いてトンボ目の網羅的な検出を行った。得られた結果に基づき、環境DNA分析によるトンボ目多様性の評価と本手法の課題について検討した。
環境DNAメタバーコーディングによる検出種数は4/5地点で採捕調査を上回り、従来手法よりも種検出力が高いことが示された。また、農業水利生態系のサンプルから計36種のトンボが検出された。最も検出頻度が高かったのは20サンプルから検出されたシオカラトンボだった。3種の希少種も伝統地を中心に検出された。サンプルを採取場所により「水田/ため池/用水路」のハビタットタイプと「伝統地/整備地/放棄地」のサイトタイプでそれぞれグループ分けしてデータを解析したところハビタットタイプ間でのみ種組成に違いが見られ、管理強度よりも土地利用がトンボ目全体の多様性に強く影響している可能性が示唆された。多くのサンプルでトンボ目の網羅的検出に成功した一方で、一部のサンプルではトンボのリードが非対象分類群にマスクされ、検出されなかった。このような偽陰性のリスクの克服は今後の課題の一つである。