| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-295  (Poster presentation)

ミャンマーの古代湖・インレー湖における魚類相形成:系統・集団遺伝学的アプローチ
Formation of ichthyofauna in Inle lake, an ancient lake in Myanmar: phylogenetics and population genetic approaches

*福家悠介(京都大学), 鹿野雄一(九州大学), MUSIKASINTHORNPrachya(カセサート大学), 渡辺勝敏(京都大学)
*Yusuke FUKE(Kyoto University), Yuichi KANO(Kyushu University), Prachya MUSIKASINTHORN(Kasetsart University), Katsutoshi WATANABE(Kyoto University)

生物群集の形成と維持機構の解明は生態学の中心的課題のひとつである。10万年以上前から存在する古代湖は爆発的な種分化現象である適応放散が生じる舞台として注目されてきた。他方、非放散的に多様性を創出したと考えられる古代湖も存在するが、その群集形成プロセスに関する知見は少ない。
ミャンマーの古代湖・インレー湖は小規模ながら、魚類で高い種多様性(41種)・固有性(56%)を有する。本地域の魚類群集は幅広い分類群から構成されているため、非放散的に形成されたと推測されている。本研究では、本地域の魚類群集の形成プロセスを明らかにするため、在来種39種51個体のミトゲノムを用いて近縁種との系統関係の推定および分岐年代の化石較正を用いたベイズ推定を行った。また、湖だけでなく、周辺水域にも生息している7種群について、地域内における地理的分化の有無とパターンを明らかにするために、MIG-seq法による多型解析によって集団構造を推定した。
その結果、本地域の魚類群集は非放散的なプロセスによって形成されたことが改めて示唆されたが、本地域固有の3種群においては地域内の異所的分化によると思われる小規模な放散が認められた。固有種の多くは8–17 Ma(百万年前)に近縁種から分岐したと推定された。5種の固有種では湖と周辺水系間で遺伝的分化が認められた。その年代は2–8 Maであり、いずれも湖の推定形成年代(約1.5 Ma)より古かった。固有種ではない在来種では、他地域集団との分化がほとんどないか、約16 Ma、5 Maに分岐したと推定され、断続的に他地域からの移住があったと考えられた。ただし、これらの分岐年代は、最近縁種との比較ができていない種で過大評価されている可能性がある。以上の結果から、本地域における非放散による群集形成および固有性の獲得には、長期的な地理的隔離だけでなく、他地域からの散発的な移住および本地域内での地域分化が関わっていると考えられた。


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