| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-296 (Poster presentation)
植食性昆虫の主要な天敵である捕食寄生者の寄生戦略には, 産卵後も宿主が発育を続ける「飼い殺し型」と産卵と同時に宿主の発育を止める「殺傷型」が見られる. 殺傷型は, 宿主側の免疫系の抑制や自身の発育を宿主と同調させるといった調整を必要としないため、飼い殺し型よりも宿主範囲が広く, 共寄生による飼い殺し型との競合においても優位となると考えられている. よって, 殺傷型が飼い殺し型と同じ宿主を利用する場合, 飼い殺し型は排除されると予想され, 飼い殺し型の戦略が野外で維持される背景には「殺傷型による寄生率が低い宿主」の存在があると考えられる. これは,「殺傷型の宿主範囲は飼い殺し型よりも広い」という前提と矛盾しており, 野外における殺傷型の実際の宿主範囲が一般的に考えられているほどには広くない可能性が示唆される. そこで本研究では, 寄主植物に潜り込んで摂食する宿主に寄生する殺傷型および飼い殺し型の寄生蜂に着目し、殺傷型の方が飼い殺し型よりも宿主範囲が広いのか, また, 宿主範囲は植物種と潜り方のどちらの影響を受けやすいのかを検証した. 潜葉パターンが異なる複数種のホソガ科昆虫が利用するマメ科植物3種を国内2ヶ所で年2-4回採集し, 寄生蜂による寄生率を調査した結果, 最も寄生率の高い地域では宿主の潜葉パターンにより殺傷型と飼い殺し型による寄生率が異なる傾向がみられた. さらに, ミトコンドリアCOIの部分配列を用いた寄生蜂のバーコーディングにより, 殺傷型寄生者の種により, 主に利用するホソガ種が異なることが明らかになった. よって, 宿主の寄主植物種よりも潜葉パターンが,「産卵可能な宿主は餌として利用可能」という捕食に近い戦略である殺傷型の宿主範囲に強く影響し, スペシャリストかつ競合に弱い飼い殺し型寄生者でも利用可能な「殺傷型による寄生率が低い宿主」を生み出すことが示唆された.