| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-297 (Poster presentation)
地球の表面積の約70%を占める海洋を通じ、分散を行う生物の存在は多く知られている。一方で、海洋を通じた分散が気候帯レベルの種多様性パターンと関連しているかを検証した研究は少ない。両側回遊魚は、遊泳能力が発達する前に海へと流下するため、分散に海流の影響を受けやすい。両側回遊魚の種多様性パターンはこうした時期に受ける海流の影響に強く規定される可能性がある。そこで本研究では、日本列島における両側回遊魚の種多様性パターンについて評価し、その成立過程における海流の影響について考察することを目的とした。
1990-2015年に全国109の一級水系において行われた 河川水辺の国勢調査のデータを使用し、20種の両側回遊魚について、分布傾向を評価した。
その結果、河口が外洋に面する河川では、河口が瀬戸内海や有明・八代海といった内海に面する河川と比較し、出現種数が多かった。
また、特に海流の影響が強いと予想される太平洋側に流入する河川を対象として、階層クラスター解析を行うと、南方に出現傾向が強い種群と北方に出現傾向が強い種群にクラスター化された。さらに、南方系と北方系いずれにおいても、北緯34-36度付近でそれ以降の緯度での出現種数が0となっていた。
そこで、2地点間の種の入れ替わりを評価するSimpsonのβ多様性を用いて、北緯34-36度付近で特に種の入れ替わりが大きくなっているかを調べたところ、このβ多様度が北緯35°を境に統計的に有意に変化することが示された。北緯34-36°は太平洋側において黒潮・親潮の潮目付近であり、海流による稚魚の分散の制限を多数の魚種に共通して引き起こしている可能性がある。つまり、日本列島における両側回遊魚の種多様性パターンは、特に太平洋側の流入する河川では、海流の影響を強く受けて成立している可能性が高い。