| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-298 (Poster presentation)
エゾウグイ (Pseudaspius sachalinensis)はコイ科ウグイ属の淡水魚である。日本においては北海道から東北地方に分布するが、福島県東部に位置する阿武隈高地周辺に生息する集団が本種の南限集団と考えられている。同地域におけるエゾウグイ集団は個体数の減少が指摘され、福島県版レッドリストに掲載されており保全優先度の高い集団といえる。一方これら南限集団の遺伝的多様性や他地域集団との遺伝的関係については不明である。本研究では阿武隈高地を流れる4河川で採取されたエゾウグイを対象に母性遺伝するミトコンドリアDNAシトクロムb領域を解読し、先行研究(Watanabe et al. 2018)で報告されているウグイ属の全国集団データと統合して他種、他地域集団との系統関係および遺伝構造を評価した。その結果、先行研究では報告されていない2つの新規ハプロタイプを検出し、ほぼ全ての供試個体がこの新規2ハプロタイプのいずれかであった。これら2ハプロタイプと既報のエゾウグイのハプロタイプとの間には10塩基程度の変異がみられ、ウグイ属内での系統関係をみると、これら2ハプロタイプは祖先種からエゾウグイへと種分化した初期に形成された地域固有性の高い系統であることが示唆された。その要因として、阿武隈高地は約250万年前に形成され、周辺の山地から長期間独立しており、その地理的特異性から、阿武隈高地のエゾウグイ集団は更新世における気候変動を経て、現在まで生残した遺存集団である可能性が考えられる。実際に冷温帯性植物でも阿武隈高地集団からは地域固有性が検出され、さらに福島県周辺は冷温帯生物の遺伝構造から検出される南方系統と北方系統の境界・混合地域でもあることが知られている(Tsuda et al. 2015)。今後本集団の集団動態の解明や保全のために、核DNAの解析や生態・分布調査を進める。