| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-305  (Poster presentation)

Does land plant-derived humic substances affect physiological evolution of fish?

*Hiyu KANBE(National Institute of Genetics), Tomoyuki KOKITA(Fukui Prefectual University), Jun KITANO(National Institute of Genetics)

水中に溶存している物質は環境ごとに異なり、魚類は生息環境中の溶存物質に適応していると考えられる。CaやNaなどの無機塩類が魚類に与える影響については既に多くの知見があるが、水中には他にも様々な物質が溶存しており、それらが魚類にどのような影響を与えるかは不明な点が多い。本研究において我々は腐植物質に着目した。腐植物質とは、植物や微生物等の遺骸が微生物による分解や縮合を受けて生じた、分子量や構造が非常に多様な高分子の混合物である。茶色〜黒色を呈する物質で、ブラックウォーター(以下、茶水)の元であり、生息する生物の色覚系の進化に影響することが広く知られている。そこで我々は、腐植物質が多く含まれる茶水河川から透明な湧水域にまで広く生息するトゲウオ科魚類イトヨ属とトミヨ属をモデルに、腐植物質が魚類の色覚系に与える影響を明らかにすることとした。
北米や日本の河川や海、湖に生息するトゲウオ科魚類の4つの錐体オプシン(SWS1、SWS2、RH2、LWS)遺伝子のアミノ酸変異を確認したところ、北米の小河川のイトヨのSWS2は茶水型であったが、海型は透明型であった。日本のイトヨは全て透明型であった。トミヨ属においても、生息環境に対応した変異は今までのところ見つかっていない。以上のことから、北米の茶水河川に生息するトゲウオ科魚類は茶水型SWS2を持っているが、日本の集団には同様の変異は確認できなかった。
他にも、植物起源の腐植物質はポリフェノール構造をとっていることから、抗酸化作用や鉄との錯体形成能力を持つと考えられる。そこで日本の湧水域と茶水域で抗酸化能と溶存鉄量を比較したところ、茶水域の抗酸化能は特に高い値を示さなかったが、溶存鉄量は高い値を示した。このことから腐植物質が土壌や水中に含まれる鉄と錯体形成して環境水中の生物利用可能な鉄濃度を上昇させていることが確認できた。


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