| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-306  (Poster presentation)

ミジンコにおける外生共生菌との共進化を探る
Investing coevolution of Daphnia and ectosymbionts

*市毛崚太郎, 丸岡奈津美, 大槻朝, 加藤広海, 占部城太郎(東北大・生命)
*Ryotaro ICHIGE, Natsumi MARUOKA, Hajime OHTSUKI, Hiromi KATO, Jotaro URABE(Life Sciences,  Tohoku Univ.)

動物の体表などに生息する外性共生細菌(ectosymbiont)が,宿主の消化や代謝などの適応度に関係する形質に寄与することが多くの動物種で示されている.外性共生細菌が宿主の遺伝的な影響を受けることが明らかになってきてはいるものの,ある外生共生細菌群集の形成が,単に宿主の遺伝的あるいは個体の違いによるものなのか,宿主の系統的な制限や共進化によるものなのかはよくわかっていない.
 日本には,遺伝的に異なる4系統(JPN1~4)のDaphnia pulex (ミジンコ)が生息しており,このうちの2系統(JPN1, JPN2)には侵入後に日本で分化したと考えられる複数の遺伝子型が存在している.日本に分布するD. pulex は,すべての個体が絶対単為生殖型,すなわち有性生殖世代を持たず,雌のみで繁殖し個体群を維持している.したがって,これらの各系統・遺伝子型のD. pulex 個体はクローンであり,その外性共生細菌の種組成の違いが,個体によるものか,遺伝子型によるものか,さらには系統によるものなのかを識別することが可能である.そこで本研究では,日本国内の湖沼に広く分布する2系統のD. pulex に含まれる8遺伝子型を用いて,宿主の飢餓と死亡に伴う外性共生細菌の変動をメタゲノム解析によって調べ,系統関係に基づいた外性共生細菌群集の比較も行った.
本研究によって,外性共生細菌群集は飢餓が進行したり死亡したりすると,宿主遺伝子型にかかわらず個体間で似てくるが,摂餌時や飢餓直後には宿主遺伝子型のみならず系統間でも異なることが分かった.この結果は,健康な宿主に形成される外性共生細菌群集は生きた宿主が産生する代謝産物等や摂取した餌起源有機物を利用して形成されていることを示唆している.さらに,飢餓前と飢餓直後に関しては,宿主の遺伝的距離と細菌群集の違い(Weighted UniFrac距離)に相関関係が見られた.この結果は,特定の外生共生細菌群集を形成するような遺伝的形質が系統により維持されていることを意味する.


日本生態学会