| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-307 (Poster presentation)
生殖隔離の進化は種分化の重要な過程であり,種間の交尾器形態の不一致による機械的隔離はその要因の一つである.祖先種が異所的に分化した後,二次的接触による分集団間の交雑が生じた時,不適応な雑種形成や交尾器の損傷といった交雑コストを避けるように生殖形質が分化すると予測される(生殖隔離の強化による生殖的形質置換).
雌雄交尾器形態に錠と鍵的対応を持つオオオサムシ亜属において,姉妹種であるマヤサンオサムシとイワワキオサムシの側所的に分布を接する集団は,交尾器形態の種間差が増加するような生殖的形質置換を示す.そこで本研究は,接触集団における交尾器形態の進化をもたらしたと考えられる自然淘汰(強化淘汰)を検出するため,マヤサンオサムシとイワワキオサムシの種間交雑コスト(交尾器の損傷,異種との交尾時間,配偶子の浪費と異種配偶子の受容)を定量し,雌雄交尾器形態の集団内変異との関連を検討した.
マヤサンオサムシの中でもより長い交尾器を持つ接触集団と単独集団の一部において,雄の交尾片が長いほど種間交尾における雄交尾器の損傷率と交尾時間が減少していた.この結果は,マヤサンオサムシの雄交尾器には,交雑のコストを回避する点で有利になるような自然淘汰が働いていることを示している.一方,雌の交尾器形態と交雑コストとの関連は見られなかった.この原因の一つとして,雌交尾器の損傷がほとんど見られなかったことが挙げられる.雄の交尾器が長くなることによる種間差の増加は,種間交尾の際の異種雌の認知を容易にし,交尾器の損傷を事前に回避し交尾を中断することで,交尾時間の短縮を可能にしたと考えられる.本研究は,種特異的な交尾器形態に働く強化淘汰を検出した初めての例であり,雄の交尾器形態に働く淘汰が雄交尾器形態の生殖的形質置換をもたらしたと共に,雌交尾器の付随的な形質置換をもたらした可能性を示唆する.