| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-309 (Poster presentation)
生殖隔離が不完全な2種が接触帯を持つ場合、交雑帯が形成されうる。交雑帯における雑種形成状況は、種の分化や維持機構の理解に繋がる。ススキスゴモリハダニ種群はススキに寄生し、集団営巣する体長1mm未満の植食性節足動物である。本種群は雌をめぐる雄同士の争いが殺し合いにまで発展し、ハーレムを形成するが、この雄同士の攻撃性の違いにより4種2型に分けられる。中でも、攻撃性の弱いトモスゴモリハダニ(以下LW)と強いススキスゴモリハダニHG型(以下HG)は地理的には側所的分布関係にあり、LWは寒冷地にHGは温暖地に適応しているため、西日本では標高によるすみわけがみられる。2種間の生殖隔離はある程度発達しているが不完全であり、また、本種群は半倍数体であるが、種間で交尾は容易におこるものの強い接合前隔離のために未受精卵が過剰生産される。その結果、交雑がおこったコロニーでは(未授精卵から発育する)雄の比率が高くなるため、性比から野外における2種間の交雑状況を推測することが可能である。そこで本研究では、HG分布北限の静岡県天城山において、標高約50m毎に本種群を採集し、雄の形態の違いから2種の分布状況を調査するとともに、各集団における雄比から種間の交雑状況を推察した。その結果、標高100-400mという広範囲で2種の分布は重なっていた。また、2種とも確認された地点の雄比は1種のみが確認された地点に比べて高くなる傾向にあった。また、2種の中間的な形質を持つ個体や、第3脚の節が少ない奇形の個体が確認された。そのため、接触帯での雑種形成が示唆された。本結果はLW分布南限に近い長崎県雲仙普賢岳で行われた先行研究の結果と同様であることから、2種の接触帯における雑種形成は標高によるすみわけが見られる西日本において一般的なものであると考えられた。今後は交雑状況の詳細を調べるため、接触帯における遺伝的集団構造の解析を進める予定である。