| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-310 (Poster presentation)
隠蔽色とは周辺環境と類似した体色や模様のことで、生物を他の生物から発見されにくくする働きがある。隠蔽色は様々な分類群で独立に繰り返し進化しており、自然選択による表現型進化の最たる例として進化生態学的に重要な知見を数多くもたらしてきた。環形動物門ウロコムシ科に属するナマコウロコムシは、隠蔽色を示す海洋生物の一例である。本種は温暖な浅海域に分布するナマコ類の体表寄生者で、日本では主に南西諸島を中心に生息している。本種は白色、茶色、黒紫色、黒色など体色に関する色彩多型を示す。さらに本種は、体色の異なる複数種のナマコ類を利用することが知られるが、本種の示す色彩型は、それぞれ実際に寄生している宿主の体色と一致しており隠蔽色としての役割を果たすと考えられている。しかしながら、本種がどのようにして宿主の体色と一致した色彩型を獲得するのかについては明らかになっていない。
本研究ではまず初めに、ナマコウロコムシの異なる色彩型が、種間の違いである可能性、すなわち隠蔽種間の表現型の違いに由来する可能性を検証するために、ミトコンドリア遺伝子のCOI領域約600 bpの比較を行った。その結果、沖縄で見つかった7種類の色彩型間では遺伝的な差異がほとんど見られず、色彩型ごとにまとまるような遺伝的構造は見られなかった。このことから、本種の複数の色彩型は種内多型であることが示唆された。次に、本種に含まれる色素が、宿主のナマコ類に含まれる色素と一致するかどうかを、高速液体クロマトグラフィーを用いた脂溶性色素の解析によって検証した。その結果、各色彩型のナマコウロコムシとその宿主との間では、検出された主要な脂溶性色素が共通していた。一方で、本種の各色彩型間や、宿主のナマコ種間では、共通していなかった。本解析の結果を踏まえて、ナマコウロコムシが宿主から色素を直接取り込むことで隠蔽色を獲得している可能性について議論する予定である。