| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-312 (Poster presentation)
生物には、多回繁殖性と一回繁殖性という異なる生活史が存在する。生活史変異の適応的意義は主に理論や種間比較によって研究され、単純な比較が行える種内での実証研究はほとんどない。アブラナ科草本のミヤマハタザオ(Arabidopsis kamchatica ssp. kamchatica)はシロイヌナズナ属に近縁なモデル植物で、中部山岳地域の0~3000mという広い標高帯に生息している。そして、高標高では典型的な多年生で、低標高では一年生に近い生活史を送るため、低標高ほど「一年草度合い」が高まる。そのため、ミヤマハタザオは生活史進化の種内比較の研究材料として有望である。しかし、こうした生活史変異が遺伝的なのかどうか分かっていなかった。
そこで、標高87~2835mに生息するミヤマハタザオ9集団に由来する計158個体を室内の均一環境で栽培することで、生活史変異が遺伝的なのか調べた。野外の一年草集団は夏季に死亡するため、一年草の生活史が熱ストレスに誘導されているかどうか調べるため、昼気温を20・28・36°Cの3条件に設定して栽培した。一般的に一年草は繁殖器官への資源分配が多いため、繁殖器官重量/栄養器官重量比を「一年草度合い」の指標とし、同一環境下でも低標高ほど一年草度合いが大きいか、生活史変異は熱ストレスによって誘導されるかを、検証した。
その結果、3条件全ての温度で低標高ほど一年草度合いが大きいことが示され、ミヤマハタザオの標高ごとの生活史変異は遺伝的であることが分かった。また、熱ストレスによって繁殖努力が増えるという効果があり、この効果は低標高集団ほど顕著にみられた。本研究から、標高によって一年生と多年生の多型という遺伝的変異が進化していることが確認された。また低標高集団では、野外の夏条件に近い時に一年草の生活史が最も明瞭に発現したため、今後熱ストレス下で低標高/高標高集団の交配家系の資源配分を測ることで、「短命遺伝子」を特定していく。