| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-314  (Poster presentation)

アリにおける腸内共生細菌の新規伝播様式 【B】
A pseudo-vertical transmission of bacterial symbiont in an ant 【B】

*Rio YAMASHITA(Kwansei Gakuin University), Yu MATSUURA(University of the Ryukyus), Hideomi ITO(AIST), Masaru K HOJO(Kwansei Gakuin University), Yoshitomo KIKUCHI(AIST), Hiroyuki SHIMOJI(Kwansei Gakuin University)

昆虫と細菌の共生関係は広く一般的に見られる現象で、共生細菌がもたらす機能はホストの栄養状態や生活史、繁殖などに大きな影響を与える。このような共生関係の成立と進化を理解するためには、共生細菌の生物学的機能だけでなく、次世代への伝播様式を明らかにすることが重要である。真社会性ハチ目昆虫であるアリにおいても、様々な細菌との強固な共生系が進化していること、そしてコロニーを創設する女王を介して共生細菌が世代を越えて受け継がれていることが報告されている。ところが、最近、我々が日本産トゲオオハリアリから発見した細菌(Unclassified Firmicutes: UF)は、ワーカーでは腸内細菌叢の大部分を占める一方で、女王やオス、幼虫、蛹ではほとんど存在しないことを明らかにした。この結果は、既往知見とは異なり本アリ種が女王を介さない別の伝播経路を有すること示唆している。そこで本研究では、トゲオオハリアリにおけるUFの局在と伝播様式を特定するために以下の実験を行なった。まず、定量的PCRとFISH法を用いた顕微鏡観察により、UFがワーカーの後腸および糞に局所的に存在する事を明らかにした。さらに抗生物質処理によりUFを除去したワーカーを作出し、UF感染ワーカーの糞が残存する巣で飼育したところ、調べた全個体がUFを再獲得したことがわかった。これらの結果は、UFがワーカーの糞を介して伝播される事を示唆するものである。最後に、本アリ種のコロニー創設のパタンから次世代への共生細菌の伝播に、なぜ女王を必要としないのかについて議論する。


日本生態学会