| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-317 (Poster presentation)
同所的に分布する近縁種の間で、資源競争や繁殖干渉などの負の種間相互作用を緩和するように形質が分化する形質置換は、多種共存や隔離強化による種分化の理解につながる重要なテーマとして研究されてきた。近年、進化が従来考えられてきたよりも迅速に起こるために、生態との相互作用(生態進化フィードバック)の観点から形質置換を考えることの重要性が指摘されている。形質置換により負の相互作用が緩和されていく過程では、資源競争に関わる生態的形質と繁殖干渉に関わる繁殖的形質の相加遺伝分散・遺伝共分散が大きいほど、進化が速く魔法形質的に働くようになり、絶滅を回避しやすくなることが予想される。
そこで本研究では、2種間の資源競争と繁殖干渉を考慮したSchreiber et al. (2019)の個体群動態モデルに、量的形質の適応度勾配に沿った進化動態を加えることで、相加遺伝分散・遺伝共分散が絶滅・共存に与える影響を調べた。ここでは、生態的・繁殖的形質の2種間の分化が負の相互作用が弱める一方で、生態的形質には繁殖率を最大化する最適値があるために、種間資源競争の緩和は繁殖率の減少を伴うというトレードオフを仮定した。
シミュレーションの結果、生態的形質置換では、異所的に分布する2種は繁殖率を最大化する形質値に進化するが、同所的に分布する2種は競争の影響で繁殖率最大化の形質値からずれた値に進化することが確かめられた。また、生態的・繁殖的形質置換が個別に起こる場合には、相加遺伝分散が大きいほど進化が速くなり共存しやすくなる一方、2つの形質置換が同時に起こると、遺伝共分散の絶対値が小さいほど共存しやすいことがわかった。これは、繁殖的形質は極端な形質値へと進化する一方で、繁殖率への安定化選択がかかる生態的形質は中間的な形質値が安定平衡点となるため、遺伝共分散によって両者の進化が干渉し合うためであると考えられる。この結果から、魔法形質が種分化を阻害する状況について議論したい。