| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-318 (Poster presentation)
病原体によるホストの搾取、毒性の進化は古くから研究されてきた課題であり、疫学・進化生態学に非常に大きな進歩をもたらしてきた。しかしながら、その多くは均一な混合集団を仮定しているため、自然界で見られる「環境の不均一性」が考慮されていない。実際の生態系は、複数の不均一な環境にある局所個体群が、個体群間の移動分散によって繋がったメタ個体群構造であると捉えるほうがより現実を反映しているだろう。メタ個体群における環境の不均一性はこれまで局所適応やそれに伴う多様性の観点から研究されてきたが、環境の不均一性が毒性進化に与える影響についての統一的な議論はいまだ不足している。 本研究ではメタ個体群を構成する局所個体群間での移動率や環境収容力、自然死亡率などの生活史パラメータがそれぞれメタ個体群中の平均からわずかに異なる、例えば個体群jから個体群iへの移動率mijについてmij=m0+ϵmij' (m0は平均の移動率、mij' は平均との差、ϵは正の微小量)と仮定し、メタ個体群における病原体の毒性進化について解析した。 その結果、
(1) 移動率の不均一性は病原体の毒性を常に増大させる。
(2) 変異型の侵入動態に直接表れない不均一性 (宿主の内的自然増加率、環境収容力、免疫喪失率の不均一性)は病原体の毒性を常に増大させる。
(3) 変異型の侵入動態に直接影響する不均一性 (宿主の自然死亡率・感染者の回復率・感染率の不均一性)は他のパラメータに依存して病原体の毒性を増大させることも減少させることもありうる。
(4) 不均一性が病原体の毒性進化に与える影響は各局所個体群における選択圧の加重平均として表され、その重みは局所個体群の繁殖価・滞在時間によって定義される。
ことがわかった。