| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-320  (Poster presentation)

種特異的な交尾器部位の極端な大型化に関わる発生過程
Developmental processes leading to extraordinary growth of species-specific genital parts

*寺田夏蓮(神戸大学), 西村太良(神戸大学), 平山明宏(兵庫県立工業技術セン), 高見泰興(神戸大学)
*Karen TERADA(Kobe Univ.), Taira NISHIMRA(Kobe Univ.), Akihiro HIRAYAMA(Hyogo Institute of Tec.), Yasuoki TAKAMI(Kobe Univ.)

 

自然界では極端に誇張された性的形質がしばしば見られる.これまで誇張された性的形質のコストとベネフィットは調べられてきたが,誇張化の背景にある発生過程については,未だほとんど分かっていない.そこで本研究は,雌雄の交尾器形態が種特異的に多様化しているオオオサムシ亜属に属し,極端に長く大きな交尾器をもつドウキョウオサムシを対象に,交尾器形態の誇張化をもたらす発生過程を解明する事を目的とした.
 蛹の各発生段階のサンプルを,ヨウ素染色の後にマイクロCTで観察した.蛹期はより小型の交尾器を持つ近縁種(マヤサンオサムシとイワワキオサムシ)より2日長い14日だった.誇張された雄交尾器部位である交尾片は,蛹化後2-4日齢の間に形成が開始され,羽化直前の14日齢まで,近縁種よりも高い成長率で伸長を続けた.交尾片の形成開始時期は,短い交尾片を持つイワワキオサムシ(蛹化後4-6日齢)より早かったが,中間的な長さの交尾片を持つマヤサンオサムシとは同じだった.  また,雄の交尾片と対応する雌交尾器の膣盲嚢は,近縁種と同様に観察開始時点である蛹化後2日齢ですでに形成されていたが,その時点において既により長く伸長しており,その後も近縁種より高い成長率で伸長を続けた.
 ドウキョウオサムシの交尾片が巨大であるにも関わらず,より短い交尾片を持つマヤサンオサムシと形成開始時期が同じであることは,交尾片の形成開始はこれ以上前倒しできないことを示唆している.ドウキョウオサムシの蛹期が他種よりも2日ほど長いのは,交尾片の伸長期間を確保するためかもしれない.よって,ドウキョウオサムシの長大な交尾片は,高い成長率と成長期間の延長によってもたらされたと考えられる.一方,ドウキョウオサムシの長大な膣盲嚢は,2日齢の時点で他種より伸長していることから,発生開始の前倒しと高い成長率によってもたらされた可能性がある.


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