| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-321 (Poster presentation)
表現型変異は、生命現象のさまざまな階層で観測される。比較的大きなスケールであれば、種間変異といった系統進化や大進化スケールでの表現型変異を認識できる。少しスケールを下げると集団内における遺伝的な差異に由来する表現型変異(Standing variation)を認識することができる。また、同じ遺伝的な背景をもっていたとしても、環境に誘導されて出現する表現型変異(表現型可塑性)や発生過程で生じるランダムな表現型変異(発生ノイズ)も存在する。一方で、いずれの階層で生じる変異においても無数の形質に変異が見られる。このとき、多次元形質空間上で各形質の表現型をプロットすると、表現型のばらつきが大きくなる形質(群)とばらつきが小さい形質(群)が存在する。そのようなばらつき方の方向性(ベクトル)は、当該空間上の第一主成分として評価できることができる。これまでに、各階層で観察されるベクトルを網羅的に比較した研究はなく、階層間の表現型変異の関係はほとんどわかっていない。そこで本研究では、ショウジョウバエ属昆虫の翅の形態に着目し、各階層における表現型変異のパターンを共通の方法で評価・比較することを目的とした。系統進化や大進化スケールにおける表現型のばらつきが最大になるベクトル(変異最大ベクトル)をdmax、Standing variationにおける変異最大ベクトルをgmax、環境に誘導されて生じる変異における変異最大ベクトルをemax、発生ノイズによって生じる変異における変異最大ベクトルをfmaxと定義し、それぞれのベクトルを定量・比較したところ、dmaxとgmax、emaxは互いによく似たベクトルであった(互いの変異最大ベクトルがなす角が10°未満)。一方で、fmaxはこれらとは異なるベクトルであることがわかった。これらの結果は、dmax、gmax、emaxは共通の遺伝的制約によって進化的あるいは発生上拘束されていることを示唆している。また、fmaxは、その制約の影響を受けずランダムな方向に生じるものであると考えられた。