| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-324  (Poster presentation)

求愛コールによる交配前隔離は完全か?ヤモリ属の接触域における遺伝学的評価 【B】
Is the premating isolation by courtship call perfect? Genetic assessment in the contact zones of Gekko spp. 【B】

*Kota OKAMOTO(Grad. Eng. Sci., Univ. Ryukyus), Hitoshi TANIOKA(Kami, Kochi), Toyofumi SUEYOSHI(Kyushu Herp. Soc.), Takanori MATSUO(Nagasaki Women's Jun. Coll.), Teppei JONO(Hiroshima Shudo Univ.), Mamoru TODA(TBRC, Univ. Ryukyus)

 分布を接する近縁種の間では,生殖隔離機構の発達の程度に応じ,交雑による遺伝子流動があることもあれば,ないこともある.集団間の遺伝子流動の有無は種の認識とも深く関わるため,生殖隔離機構の詳細を明らかにすることは種分化メカニズムの理解の上でも重要である.日本産ヤモリ属8種は,9つの種間のペアで分布を重ねているが,交雑するペアとしないペアがある.この違いを説明する生殖隔離機構として,種特異的な求愛コールの重要性が示されている.ヤモリ属のオスは求愛コールを発するが,それが種特異的なもの(パタン種)と必ずしも種特異的でないもの(ランダム種)があり,パタン種は求愛コールによって同種を識別可能であるため異種との交雑が防がれると考えられている.実際に既知の4ペアの自然交雑は全てランダム種と異種の組み合わせであるが,パタン種同士の接触域における自然交雑の調査は十分とはいえない.本研究では,パタン種4種(ミナミヤモリ,ニホンヤモリ,ニシヤモリ,オキナワヤモリ;以下ヤモリは省略)の間の組み合わせを中心に,計8つの種間ペアで交雑の有無や頻度を調べ,比較した.交雑の評価は,接触域で採集した個体を対象としたマイクロサテライトまたはアロザイム遺伝子座の分析によった.その結果,ニホン-ニシ間とミナミ-ニシ間で新たに交雑が確認された一方,ミナミ-ニホン間とミナミ-オキナワ間では交雑が確認されなかった.すなわち,本属における交雑は主にランダム種の種認知が十分でないことにより説明できるが,ニシが関与する2ペアはそれには当てはまらない.交雑している種間では,統計的に有意ではなかったものの遺伝距離が離れるに従い戻し交雑が生じなくなる傾向にあった.以上の結果から,ヤモリ属では求愛コールによる交配前隔離の影響が大きいものの全ての種に当てはまる訳ではなく,遺伝的分化が引き起こす交配後隔離も影響していることが示唆された.


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