| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-325 (Poster presentation)
生物種の様々な環境への適応機構を明らかにすることは、気候変動に対する種の応答を予測するためにも重要である。キューバに生息するアノールトカゲは開放高温環境、林縁中温環境、森林低温環境など異なる生息温度環境への進出が複数の系統で独立に起きたことが示唆されており、温度環境への適応メカニズムの研究に適した生物であると考えられる。近年、様々な生物種の全ゲノム解読が進み、ゲノムの非コード領域の解析が可能となってきた。ゲノムの非コード領域には多くの機能的な要素が含まれており、非コード領域において加速進化した領域が表現型に寄与する例が最近多くの研究で示されている。本研究では、アノールトカゲのゲノムの進化的特徴を明らかにするために、生息温度環境の異なる種を含む計7種(Anolis sagrei, Anolis homolechis, Anolis allogus, Anolis porcatus, Anolis allisoni, Anolis isolepis, Anolis carolinensis)のアノールトカゲの全ゲノムを用いて、進化的に保存、もしくは加速進化しているゲノム領域の検出を試みた。さらに、様々な環境への適応に関わるゲノム領域を推定するため、生息温度環境の類似する種で共通して加速進化した領域を含む遺伝子を探索した。その結果、開放高温環境に生息する種で共通に皮膚や血管の弾性繊維の形成に関わる遺伝子や網膜の視覚情報伝達に関与する遺伝子が検出され、森林低温環境に生息する種では脂肪代謝に関連する遺伝子が検出された。また、開放高温環境、森林低温環境どちらに生息する種においても神経系で機能する遺伝子に関わる領域が複数加速進化したことが示された。