| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-327 (Poster presentation)
熱帯雨林には多くの近縁種が同所的に生育している。同所的近縁種の共存メカニズムの一つとして近縁種間でニッチが互いに異なっていることが挙げられる。同所的近縁種のニッチ多様化過程をあきらかにすることは、熱帯雨林における種の多様化の過程、種多様性維持の両方の理解に役立つだろう。本研究では、マレーシアボルネオ島のランビルヒルズ国立公園内に設置された52 haの大面積調査区を使って、同所的近縁種が多いカキノキ属を対象に、近縁種間の系統関係と過去の交雑の可能性を推定し、ニッチ多様化との関係を検討した。系統推定は、次世代シーケンサーを用いたGRAS-Di解析で取得した塩基配列データから最尤法(RAxML)とベイズ法(BEAST2)で行った。また、調査地の4回の全木センサスから得られた生態特性データ(最大幹直径、死亡率、更新率、成長率、ハビタット)に基づいて定量化した各種のニッチとベイズ法で得た系統樹を使い、ニッチ多様化速度と種多様化速度をBAMM(Bayesian Analysis of Macroevolutionary Mixtures)で推定した。さらに、過去に種間交雑が起きていた可能性について、SplitsTreeとSTRUCTUREの2つのソフトウェアを用いた交雑解析で検討した。その結果、調査地のカキノキ属は、ボルネオ固有種の多い系統と広域に分布する種が多い系統に分かれることがわかった。ボルネオ固有種の多い系統では、主に1 千万年前以降に種分化が起きたこと、ハビタットの多様化速度も1 千万年前以降に増加したことが推定された。これは、ボルネオ島でのカキノキ属の種分化にハビタットニッチの多様化が重要であったことを示唆する。また、交雑解析から過去に交雑が起きた可能性が示唆されたため、交雑とニッチ多様化の関係についても検討したい。