| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-329  (Poster presentation)

シロアリの交雑による腸内共生原生生物群集の混合と混合後の群集の進化
Mixing of intestinal symbiotic protist communities and subsequent community evolution

*嶋田拓也, 北出理(茨城大学)
*Takuya SHIMADA, Osamu KITADE(Ibaraki Univ.)

 近年、異なる群集が混合された場合、いかに新しい群集が形成されるかが群集生態学の研究対象として注目されている。群集混合のシミュレーションから、構成種間に強い相互作用がある場合には、群集の混合後に、片方の親群集由来の種組成に収束しやすくなることが予測されている。シロアリの共生原生生物群集は、構成種が代謝を介し非常に強く相互作用している。私達の研究室で、ヤマトシロアリとカンモンシロアリの2種を交雑させ、宿主種に特異的な原生生物群集を混合させた実験では、交雑コロニーの大部分がヤマト型の種組成に収束した。また、SSU rRNA遺伝子を指標とした組成調査から、両宿主種が共有する原生生物種も、ヤマト由来の個体が交雑コロニーに継承されることが示された。ただし、混合後の群集構造の経時的変化について詳細な調査はされていない。また、メタン生成細菌群集の混合実験では、混合後に形成される群集のメタン生成速度が高まることが知られており、シロアリ原生生物の偏った収束も、木質分解能力がより優れた親群集への収束である可能性がある。
 本研究では、ヤマトシロアリとカンモンシロアリの原生生物群集を混合させ、原生生物の個体数の計数とSSU rRNA遺伝子の解析の両方で、混合後の群集構造の経時的変化を詳細に調査した。交雑コロニーの群集構造は、創設80日後までの短期間にヤマトシロアリのそれに非常に近くなった。遺伝子解析でも同様の変化が示された。また、両親種と交雑個体の木質分解活性を測定した結果、ヤマトシロアリと交雑個体の共生微生物群集のキシラナーゼ活性には差がなかったが、カンモンシロアリと比べると有意に高かった。原生生物群集でも、より優れた活性をもつ群集への収束が起こるといえる。さらにこの結果は、異種宿主の交雑を通して共生生物群集の組成が変化し、それが宿主の適応的進化をもたらすことを初めて示したものである。


日本生態学会