| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-332  (Poster presentation)

クロサンショウウオにおける頭胴長の緯度パターンは雄間闘争によって生じたのか?
Has male competition caused the latitudinal pattern of snout-vent length in the Japanese black salamander?

*森井椋太, 西野敦雄, 池田紘士(弘前大院・農生・生物)
*Ryota MORII, Atsuo NISHINO, Hiroshi IKEDA(Hirosaki Univ.)

緯度に伴う気温の違いは、生物に様々な地理的変異を引き起こす。近年、メダカにおいて雄間闘争の強さの地理的変異が明らかにされたが、このような地理的変異の例は珍しく、他の生物ではあまり知られていない。サンショウウオ科の一部では温暖な地域ほど全長が長く、そのような個体は繁殖期間が長いことが知られていた。そのため、温暖な低緯度ほど個体同士の繁殖期間が重複しやすく、雄間闘争が強まりやすい可能性がある。
クロサンショウウオは青森から福井まで分布し、雄は頭胴長が長いと抱接時に卵のうを独占しやすいことが知られている。そのため、本種でも温暖な低緯度ほど全長が長いのであれば、それによって雄間闘争が強まり、全長に対する相対的な頭胴長も長い可能性がある。この問題に関して、著者はこれまでに、高緯度の青森と低緯度の石川において、低緯度の方が確かに全長と頭胴長が長いこと、およびこの地理的変異が遺伝的に決まっていることを示してきた。そこで本研究では、この地理的変異が系統関係を反映したものであるかを調べるため、本種を87地点で540個体採集し、mtDNAのCytb領域と核DNAのRag1領域を用いて系統解析を行った。その結果、本種は4系統に分かれた。この系統解析の結果をもとに、野外個体でも地理的変異が存在するかを調べるため、雄成体503個体と、比較のために雌成体113個体の全長と頭胴長を測定し、全長と相対的な頭胴長に系統間で違いがあるのかを調べた。その結果、全長には4つの系統間で差はなかったが、気温が高い地域ほど長かった。一方で、相対的な頭胴長は、雌では低緯度と高緯度で差がないのに対して、雄では低緯度に分布する系統ほど長かった。以上より、低緯度では気温が高いことにより全長が長くなり、さらにそれに応じて雄間闘争が強まるため、相対的な頭胴長が高緯度から低緯度にかけて連続的に長い形態に進化した可能性がある。


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