| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-333  (Poster presentation)

キハダショウジョウバエにおける季節変化への迅速な適応
Rapid adaptation to seasonal environmental fluctuations in Drosophila lutescens

*竹之下彰子, 髙橋佑磨(千葉大・理)
*Akiko TAKENOSHITA, Yuma TAKAHASHI(Fac. Sci., Chiba Univ.)

生物は、気候変動などにより変化しつづける環境を追従するように進化し、適応してきた。このような生物の進化的追従は、数年から数十年単位で変動する環境に対しても観察されている。時間的環境変動の中でもっとも急速な環境変動の一つが季節変化である。一般にこのような急速な変化を進化的に追従することは困難とされているが、世代の長さが1年よりもはるかに短い生物種では、季節ごとに異なった選択圧を受けることで進化が起きている可能性がある。実際、世代時間が非常に短いショウジョウバエ類では、多数の遺伝子においてアリル頻度の周期的な季節変化が報告されている。また、表現型レベルでは、複数の形質が季節によって変化することが示唆されている。しかしながら、表現型レベルの研究の多くは、形質測定を採集した季節ごとに行なっているため、表現型が測定時期の影響により変化している可能性を排除できていない。本研究では、野外のキハダショウジョウバエ(Drosophila lutescens)を用いて、高温耐性と低温耐性、飢餓耐性、体サイズを異なる季節集団間で同時に測定することで、季節変化に対する表現型進化の存在を検証することを目的とした。まず、越冬後の春集団と越夏後の秋集団について千葉大学構内でサンプリングを行ない、各季節で50系統以上の単雌系統を確立した。実験室環境で数世代飼育して母性効果などの環境効果を取り除いたのち、温度耐性を調べたところ、高温耐性は秋集団が春集団よりも高く、低温耐性は春集団が秋集団よりも高いことがわかった。次に、飢餓耐性を調べるために、飢餓状態での成虫の生存日数を測定したところ、春集団が秋集団よりも高い耐性を示した。最後に、体サイズの指標として、翅長と胸部長を測定したところ、春集団は秋集団と比べて体サイズが有意に大きかった。これらの結果は、本種のさまざま形質に関して、季節変化に応じた急速な表現型進化が起きている可能性を示している。


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