| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-336 (Poster presentation)
近年、都市化が原因となり生物の生息地の生物的・無機的な環境は急速に変化している。このような環境変化が生物の種数や個体数に与える影響は数多くの研究で指摘されているものの、それらが表現型レベルで生物に与える影響は充分にはわかっていない。一般に、都市では温度上昇や光害といった環境変化が起きており、環境変化に対する適応進化や表現型可塑性による表現型変化が生じていると考えられる。本研究では、果樹害⾍のオウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)を用いて、都市化に伴う表現型の進化的、可塑的変化を多角的に検証することを⽬的とした。まず、都市と郊外の複数地点を選定し、衛星画像を⽤いて各地点の5㎞圏内の都市化指数を求めた。次に、各地点で本種のサンプリングを⾏ない、地点ごとに複数の単雌系統を確⽴した。臨界最高(最低)温度を測定したところ、臨界最高温度には地点間の差異が認められなかったが、臨界最低温度には地点間の適応的な遺伝的変異が認められた。高温あるいは低温曝露に対する臨界最高(最低)温度の可塑的変化の程度を調べたところ、低温曝露の有無は臨界最低温度に影響しなかったが、臨界最高温度は高温曝露によって上昇した。このとき、その上昇傾向は都市由来の系統でより顕著であった。つぎに、成虫の日周活動に関する都市勾配に沿った進化な差異と、高温や光害が日周活動に与える影響を調べるために、気温と夜間の光量がそれぞれ2段階となる計4通りの環境で個体を卵から飼育し、得られた雌成虫についてそれぞれの環境での活動を24時間記録した。その結果、都市個体の方が24時間の活動量が高いことや、夜間の微弱な照明が全体的な活動量を著しく低下させることがわかった。また、夜間照明のある条件では、都市の個体は郊外の個体と比べて夜間に活動する傾向が強いこともわかった。これらの結果をもとに、高温や光害が本種に与える遺伝的・可塑的な影響を議論する。