| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-337 (Poster presentation)
対捕食者戦略の一つであるベイツ型擬態は、毒や防御機構を持たない種(擬態種)が毒や防御機構を持つ種(モデル種)に姿を似せることで、捕食リスクを低下させる戦略のことであり、様々な分類群で見られる普遍的な現象である。ベイツ型擬態とされる種では、擬態モルフと非擬態モルフが同所共存する種内多型(以下、擬態多型)がしばしば観察される。従来はこの擬態多型を負の頻度依存選択に注目して説明してきた(頻度依存選択仮説)。擬態モルフの種内頻度が増加すると、擬態の効果が薄れて適応度が下がることで、負の頻度依存選択が働き、擬態多型が維持されるというのである。しかしながら、従来の頻度依存選択仮説には実験的証拠が少ないといった問題がある。
そこで本研究では、擬態種とモデル種の出現時期の季節的なずれに注目し、出現時期のミスマッチに起因する選択圧の季節的変動が擬態多型を維持しているという仮説(季節変動説)を提案する。この仮説に基づけば、出現時期のミスマッチが大きいほど擬態多型が維持されやすいと予想される。この仮説を検証するため、集団遺伝モデルを用いた理論解析と、野外出現データを用いたデータ分析の二つを行った。
二つの季節を想定した集団遺伝モデルでは、モデル種密度の季節変動が大きいほど擬態多型が維持されやすいという結果が得られた。とくに擬態モルフの適応度が負の頻度依存性を持つ場合には、季節変動との相互作用によってより擬態多型が維持されやすくなった。野外出現データの分析では、アゲハチョウ属10種を対象に、それぞれのモデル種との出現時期のミスマッチを計算し、系統関係を考慮した分析を行った。その結果、出現時期のミスマッチが大きいほど擬態多型になりやすい傾向が認められた。最後に、従来仮説と本研究の季節変動仮説ではどちらがより適当な説明か、先行研究で報告された初出現日のずれや季節的な可塑性と関連付けて考察する。