| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-338 (Poster presentation)
通常,XY性決定の生物における出生時性比は,メンデルの法則に従って1:1になる.一方,ネッタイシマカとアカイエカでは,Y染色体上の利己的遺伝子が性比をオスに偏らせている例が知られている(Wood & Newton 1991).Y染色体上に利己的遺伝子が存在する集団では,高確率でX染色体上に抵抗性遺伝子が存在し,個体群内交配では極端な性比の偏りはみられないが,利己的遺伝子がほとんどみられない個体群との群間交配によって性比の偏りが検出される. 琉球列島に生息するスギオシロアリNeotermes sugioiの沖縄島個体群と石垣島個体群では,5齢以上の全カーストで性比がオスに偏っており,一次性比の時点でオスに偏っている可能性がある.本種は XY型性決定であるため,一次性比をオスに偏らせる要因としてY染色体上の利己的遺伝子が考えられる. 本研究では,本種の野外コロニーにおける一次性比調査を行った.さらに,本種の沖縄島個体群と石垣島個体群の有翅虫を用いて,個体群内および個体群間で交配実験を行い,得られた卵・幼虫の性比を算出した.その結果,石垣島の個体群内交配では卵・幼虫の平均性比はオス:メス=1:1であった一方で,沖縄島の個体群内交配では1:0.81とオスに偏った.個体群間交配においては卵・幼虫の性比の偏りが強くなり,さらに,沖縄オスと石垣メスの交配では1:0.72になる一方で,沖縄メスと石垣オスの交配では1:1.5と,逆に性比がメスに偏った.これらの結果から,石垣島に比べ,沖縄島個体群は雌雄ともに自分の性を多く産む性質が発達しており,沖縄島の野生集団では,相対的にオスに偏らせる力が勝ることで一次性比がオスに偏っていると考られた. 性比に偏りをもたらす利己的遺伝子のせめぎ合いが野外で検出された事例は稀であり,今後,利己的遺伝子に対抗する形質の進化に関する重要な知見をもたらす可能性がある.