| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-339  (Poster presentation)

グッピーにおけるオレンジスポット形成の遺伝的基盤
Genetic basis of orange spots formation in the guppy, Poecilia reticulata

*川本麻祐子, 石井悠, 河田雅圭(東北大学)
*Mayuko KAWAMOTO, Yuu ISHII, Masakado KAWATA(Tohoku Univ.)

グッピーではオスでのみ黒や青、白、オレンジ色などの鮮やかな体色が発達し、メスは特にオレンジ色のスポット模様を重視して配偶者を選択する。本研究ではオレンジスポット形成の遺伝的基盤の解明を目的とし、RNA-seqによるオスの皮膚での遺伝子発現解析と、オレンジスポットの構成要素である黄色素細胞の観察を行った。
まずオレンジスポット部分とスポット以外の部分の皮膚での遺伝子発現比較から、スポット部分で高・低発現する遺伝子を検出した。さらに、オレンジスポット形成を基準に設定した3つの成長段階において、胴体部分全体の皮膚での遺伝子発現を比較し、スポット形成に伴い発現量が変化する遺伝子を検出した。これらの比較から検出された遺伝子の中で、他の生物で体色への関与が知られる遺伝子に注目して発現パターンを確認することで、スポット形成の仕組みを推定した。その結果、オレンジスポットは神経堤細胞から一次分化した黄色素細胞ではなく、そこからさらにCsf1シグナルと甲状腺ホルモンの受容により二次分化し、細胞内のカロテノイド量が増加することでオレンジ色に変化した黄色素細胞から形成されることが示唆された。
次に、蛍光顕微鏡での黄色素細胞中のプテリジン色素の蛍光観察により、黄色素細胞の空間配置と形態変化の調査を行った。その結果、オレンジスポット部分には黄色素細胞が高い密度で存在し、スポット部分とスポット以外の部分、オスの体色が形成される以前の皮膚とでは黄色素細胞の形態が異なることが明らかになった。また、白色のスポット部分でもオレンジスポット部分と同様の形態の黄色素細胞が観察された。以上のことから、黄色素細胞の二次分化による形態変化はオレンジスポットと白スポット部分で生じており、オレンジ色への変化は細胞内へのカロテノイドの取込など、さらに別の要因が関係していることが推定された。


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