| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-345 (Poster presentation)
外来生物の防除において,多くの場面で最初に取り組まれる手法に,費用の安さや対象種に対する即効性の観点から,薬剤を用いた化学的防除が挙げられる.一方で,化学的防除は,有効成分によっては環境中に長期に残留することで環境に大きな負荷をかけることや,生育段階によって効果が異なるといった問題点も指摘されている.
世界で31種が知られるゴケグモ属クモ類(Latrodectus spp.)は,わが国において,アフリカ大陸原産のハイイロゴケグモL. geometricusと豪州原産のセアカゴケグモL. hasseltiiが1995年に初確認され,人体に対する有毒性(α-ラトロトキシン)から特定外来生物に指定されている.特にセアカゴケグモは,日本中で確認されており,自治体,個人問わず,ピレスロイド系殺虫剤を主体とした化学的防除が実践されている.しかし,ゴケグモ属の生体には本系統剤の有効性が認められるものの,卵には十分な効果が発揮されない.その理由として,卵囊が薬効成分の卵までの浸透を防ぐためと言われている.これは,ゴケグモ属に対して,薬剤処理のみでは効果的な防除にいたらず,生育段階に応じた防除の選択・開発が必須であることを意味している.
薬剤に耐性を有する有害生物や異なる生育段階に対しても効果的とされる防除手段のひとつに熱処理が挙げられる.熱処理は分類群や生育段階を問わず有効性が確認されることから,ゴケグモ属の卵囊に対しても高い殺滅効果が得られる可能性が示唆される.とは言え,クモは益虫として生態系機能を果たすことから,クモ類の熱に関する生態的知見は,現時点でほとんど得られていない.特に,ゴケグモ属を含むクモに対して防除を目的とした観点での熱耐性の研究はほとんど見られない.
本研究では,ゴケグモ属の卵囊に対する防除手法の探索の一環として,セアカゴケグモとハイイロゴケグモを対象に,両種の卵嚢が有する熱耐性について明らかにした.