| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-346  (Poster presentation)

カミツキガメとアメリカザリガニの捕獲記録から捕食被食関係と時空間動態を探る
Exploring predatory relationships and spatiotemporal dynamics of Snapping turtles and American crayfishes using capture data

*西本誠(東京大学), 宮下直(東京大学), 今津健(千葉多様性センター), 高橋洋生(自然環境研究センター), 深澤圭太(国立環境研究所)
*Makoto NISHIMOTO(Univ. Tokyo), Tadashi MIYASHITA(Univ. Tokyo), Takeshi IMAZU(Chiba Biodiv. Center), Hiroo TAKAHASHI(JWRC), Keita FUKASAWA(NIES)

複数の外来種がいまや普遍的に1つの系に侵入・定着し、生態系の構造や機能の改変に影響を与えている。複数外来種がいる系の種間相互作用は環境によって大きく変化することが指摘されてきたが、連続的に変化する野外の環境下でそれを実証することは極めて困難であった。そこで、本研究では環境の違いにより種間相互作用が変化することを明示的に考慮した多種状態空間モデルを考案し、実際の野外データに適用した。
 本研究では、種間相互作用の不均一性を検証するために、千葉県印旛沼水系のカミツキガメ防除にて蓄積されている10年分のカミツキガメ捕獲データとアメリカザリガニの混獲データを用いた。本水系は、捕獲による人為介入があり、複数の河川が沼に流入する大規模な野外操作実験系であるため、野外検証に最適である。本研究の解析では、大きく性質の異なる沼と河川の傾度を表す指標として流速を考え、プロセスモデルに流速と種間相互作用の交互作用項を考慮した。その結果、流速が小さいほどトップダウン効果が強く作用することが明らかになった。この強さの空間不均一性は流速が栄養塩や濁度など水系の状態を様々に変えることで生じたと考えられる。一方で、ザリガニからカミツキガメへのボトムアップ効果は流域全体を通して見られなかった。これはカミツキガメがジェネラリストで餌の選択肢が多いことによると考えられる。本研究により場所毎でのトップダウン効果の強弱を明らかにしたことで、外来種防除による在来水草への影響リスクの評価のみならず努力量配分といった効果的な防除戦略につながる考察が可能となった。本研究で用いたモデルは発展の余地があり、種間相互作用に対して環境が非線形に働くように改良することで、より現実的なプロセスを追うことが可能になるだろう。


日本生態学会