| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-348 (Poster presentation)
侵略的外来種による生態系への影響は生物多様性保全上の重要な問題のひとつである。イエネコは世界の侵略的外来種ワースト100にリストされており、特に島嶼において在来種の絶滅など甚大な影響が確認されている。日本において本種による影響が懸念される奄美大島では、イエネコによる絶滅危惧種の捕食が確認されており、森林内及び人里での対策が進められている。しかしながら、奄美大島におけるイエネコの動態に関する知見は十分ではなく、対策の優先順位など改善の余地がある。例えば、同じ奄美大島群島内で気候的・生物的環境が近い徳之島では、安定同位体比分析により、森林内で捕獲されたイエネコも、人里で与えられるペットフードに依存していると判明し、人里での対策の重要性が示唆された。奄美大島においても森林内のイエネコの餌資源の依存度を調査することは、森林域のイエネコの発生源を特定し、対策の労力配分や重要性を検討するうえで重要である。そこで、本研究ではイエネコの体毛を用い、安定同位体比分析を行った。解析の結果、奄美大島の森林内で捕獲されたイエネコの食性は、絶滅危惧種を多く含む森林資源に依存する型と、ペットフードに依存する型の2つが確認された。これは、ほとんどの個体がペットフードに依存していた徳之島のイエネコとは異なる結果であり、森林サイズが違いの要因であると考えられた。また、森林内で捕獲されたイエネコ幼齢・若齢個体のほとんどが森林資源に依存していた一方で、壮齢個体はペットフードへの依存度が比較的高かった。これは、森林内での繁殖が起きていること、壮齢個体は森林と集落を比較的高頻度で往来していることを示唆している。以上の結果より、奄美大島では徳之島と違い、人里から森林へ侵入するイエネコだけでなく、森林に定着している個体が多く存在するため、奄美大島のイエネコ対策においては森林内と人里の両方の対策が重要であると考えられる。