| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-349 (Poster presentation)
高い可塑性をもつ種は、導入された新しい環境で外来種として定着し、分布拡大を成功させやすいとされており、その環境選択を明らかにすることは対策を考えるうえで重要である。環境省の重点対策外来種に指定されている中型哺乳類ハクビシンは、現在ほぼ全国的に分布している。ハクビシンの環境選択は研究によって結果が様々であり、環境選択に可塑性を持つ可能性がある。本研究では、東北地方の農村景観においてハクビシンの追跡調査を行い、環境選択性とその個体差を明らかにした。
山形県鶴岡市の2地域で、2015年7~12月と2019年5~11月にかけて成獣8頭 (オス5頭、メス3頭) を対象に追跡調査をおこない、位置データを取得した。環境選択は、個体の位置データと環境要因 (落葉広葉樹林、針葉樹林、水田、果樹園、人工構造物への距離) との関係を明らかにする一般化線形混合モデル (GLMM) によって解析した。また、環境選択における個体差を考慮する重要性を確かめるため、ランダム傾きを利用して個体差を考慮しないモデルと考慮したモデルの2種類を作り、AICとR²m、R²cを用いて適合度を比較した。
2種類のGLMMを比較した結果、個体差を考慮した解析の方がAICの値が小さく、R²mとR²cの値の差が大きかったため、より良く環境選択を説明できた。個体ごとの環境選択の結果から、ハクビシンは行動圏が重複する個体間でも選択性にばらつきがあることが示された。また、全個体に共通の環境選択の結果から、落葉広葉樹林と人工構造物が同程度利用されていたことも示され、本調査地の人工構造物はハクビシンにとって落葉広葉樹林と同等の機能を果たしていた可能性がある。このような種の持つ生息可能環境の幅広さと環境選択の可塑性は、本種が国内で広域分布に成功できている要因の一つと考えられる。同時に、本種の資源選択の解析において個体差を考慮することの重要性が示された。