| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-354 (Poster presentation)
日本から海外に持ち込まれた外来種の中に、スゴモリハダニ類という体長1mm未満の植食性節足動物が存在する。本ハダニ類は主にササ、タケ、ススキといったイネ科植物の葉に寄生し、糸を何重にも張ることで作られるトンネル状の巣網の中で集団生活を営むという変わった生態をもつ。海外では、和風ガーデニングの流行により東アジアからササ・タケ類が輸入されるようになり、本ハダニ類はこれら寄主植物と共に欧米に持ち込まれたと考えられている。被害としては、主にササ・タケ類の葉の変色よる庭園や植物園の景観劣化が挙げられるが、欧米には、東アジアに分布するタケカブリダニのように本ハダニ類の強固な巣網に侵入可能な天敵がいないため、本ハダニ類は局地的に大発生しており、生態系への悪影響も懸念されている。そこで本研究ではこの大発生問題を解決するために、生物農薬として世界中で利用されているカブリダニ類のうち、ハダニ類の糸を切断する能力を持つチリカブリダニと、比較的体が小さく巣内への侵入が期待されるククメリスカブリダニに着目し、それらの本ハダニ類に対する捕食能力を調査した。また、本ハダニ類として比較的大きな連続巣を張るケナガスゴモリハダニと、中型の不連続巣を張るタケスゴモリハダニを対象とし、それぞれ巣網張り時間を変えることにより、捕食能力に対する巣網の性質の違いや有無、その強度の効果も調査した。その結果、どちらの種においても、スゴモリハダニ類捕食能力は巣網の有無またはその強度に大きく影響を受け、天敵であるタケカブリダニには及ばないことが明らかになった。一方で、ククメリスカブリダニではその捕食能力に個体差が見られ、タケカブリダニと同等に捕食できる個体がいた。そのため、捕食可能な個体を選抜することができれば、ククメリスカブリダニを使って欧米におけるスゴモリハダニ類の大発生問題を解決することは可能だと考えられた。